絵本の読み聞かせは、子どもの言葉の力や想像力を育てるだけでなく、他者への共感や自分の気持ちをコントロールする力、そして保護者との信頼関係まで、幅広く支えていくことが分かっています。読み聞かせは、文字を早く覚えさせるための特別な学習ではなく、親子でゆったりと同じ時間を過ごすこと自体に意味がある活動です。
本記事では、絵本の読み聞かせが子どもの発達に与える効果、親子双方の心にもたらす良い影響、読み手の負担を和らげる関わり方、保育現場や家庭での実践的な工夫、絵本が持つ本来の役割、そしてこれまでの内容の要点について紹介します。
乳幼児期の絵本読み聞かせで子どもの発達が伸びる
乳幼児期からの絵本の読み聞かせには、言葉の力だけでなく、体の動きや心の育ちまで含めた幅広い発達を押し上げる効果が確認されています。ここでは、次の3つの観点から発達への効果を紹介します。
- 運動や社会性など5つの発達領域がバランスよく伸びること
- 言葉を理解し語る力が育つこと
- 共感する心や感情をコントロールする力が育つこと
運動や社会性など5つの発達領域がバランスよく伸びる
継続的な絵本の読み聞かせは、3歳時点における子どもの運動、コミュニケーション、社会性など、広い範囲の発達を総合的に高めることが分かっています。
絵本を通じた密接なやりとりや、絵を見ながら物語を追う体験が、幼児の脳の神経回路のつながりを豊かにするためだと考えられており、特定の力だけでなく体の発達や人との関わり方までバランスよく育つとされています。この結果は、環境省が進める「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加する約10万人のうち、必要な情報がそろっている36,866組の母子のデータを解析した大規模な調査から導かれたものです。
発達の進み具合を確かめる世界的な検査法である「ASQ-3(月齢ごとの発達の目安をたずねる質問紙)」が指標として使われており、1歳の時点で発達に遅れが見られた子どもであっても、その後読み聞かせを続けることで、3歳時点の発達スコアがはっきりと改善していたことも確認されています。
出典:東北大学|絵本の読み聞かせが子どもの発達全般に好影響を与えることを解明-エコチル調査のビッグデータ解析より-
調査で確認された5つの発達領域は、次の表のとおりです。
| 発達領域 | 内容 |
|---|---|
| コミュニケーション | 言葉によって気持ちや考えを伝え合う力。読み聞かせを週5回以上行うグループは、ほとんど行わないグループに比べて高いスコアが確認されています |
| 粗大運動 | 走る、跳ぶといった体全体を使う動きの発達 |
| 微細運動 | 手先や指先を細かく動かす力の発達 |
| 問題解決 | おもちゃの使い方を考えるなど、原因と結果を推測して対応する力 |
| 個人-社会 | 身の回りのことや、周りの人との関わり方に関する発達 |
言葉を理解し語る力が育つ
絵本の読み聞かせは、幼児期の音韻意識(言葉の音のまとまりを聞き分ける力)や語彙の獲得を促すだけでなく、自分の生活の出来事を順序立てて相手に説明する「談話能力」を育てることにもつながります。
絵本を読み上げる声を聞くことで言葉の響きやリズムが体に入り、さらに物語のすじや繰り返しの構造を耳にすることで、出来事を頭の中で整理して語る力が刺激されるためです。学校教育法第23条4項でも「日常の会話や、絵本、童話等に親しむことを通じて、言葉に対する感覚や言葉で表現する力を養うこと」と定められており、絵本と言葉の力の関係は制度の面からも位置づけられています。
幼児期後期のコミュニケーション力を測る「AcNas(子どもの語りの力を測る評価尺度)」の研究では、この語りの力が、語彙の量だけを測る検査とは偏った相関を示さない、独自の力であることが分かっています。現職の保育士168名への調査でも、19.2%(122件)の保育士が読み聞かせの効果として「言語能力の向上」を挙げています。
出典:Learning Gate|Analysis on the Role of Picture Books in Children’s Cognitive Development Education
出典:中村学園大学|保育者による絵本読み聞かせ方法に関する一考察(PDF)
【音韻認識が育つ】
絵本の読み上げを聞き続けることで、言葉のリズムや音のまとまりを感じ取る力(音韻認識)が育ち、読解力の基礎になると考えられています。
【事象系列を語る力が育つ】
日常の出来事を、絵を見ながら時間の順番どおりに話す力(事象系列)は、絵本を通じて積み重ねられる経験のひとつです。
【物語再生の力が育つ】
字のない紙芝居「クレヨンのはしご」の音声を聞いたあとにお話の筋道を整理して語り直す実験では、聞いた内容を頭の中で組み立て直す高度な語りの力が確認されています。
共感する心や感情をコントロールする力が育つ
感情豊かな物語に触れることは、子どもが他者の気持ちを想像し、自分の感情をコントロールする力を育てることにつながります。物語の中で困難や葛藤に直面する登場人物の心情を疑似的に体験することで、現実の生活でも他者の心理を推し量る「心の理論(他者の気持ちや考えを推測する心の働き)」が育まれ、共感する力や感情を調整する力が鍛えられると考えられています。
学術的なレビューでは、感情表現が豊かな物語絵本の読み聞かせによって、3〜7歳の子どもの共感性が42%〜48%、感情調節の力が38%〜42%高まるという結果が示されています。
出典:Learning Gate|Analysis on the Role of Picture Books in Children’s Cognitive Development Education
AcNasの談話課題に含まれる「状況絵課題(登場人物が困っている場面の絵を見て説明する課題)」の成績は、5歳後半から6歳にかけて大きく発達することも分かっています。現職保育士168名への調査でも、読み聞かせの効果として「想像力を養う」を19.9%(126件)、「感情表現の発達」を18.0%(114件)の保育士が挙げており、認知面の力と並んで高く意識されています。
出典:中村学園大学|保育者による絵本読み聞かせ方法に関する一考察(PDF)
- 共感性の向上:他者の立場や、自分と異なる背景を持つ人への配慮する気持ちが、42%〜48%高まるという結果が示されています。
- 感情調節の発達:不安やいらだち、怒りといった自身の感情に折り合いをつける力が、38%〜42%高まるとされています。
- 他者視点理解の難しさ:状況絵を使った課題は、出来事を並べて語るだけの課題に比べて、背景にある事情や相手の気持ちを推測する必要があるため難しく、5歳後半から6歳にかけて大きく伸びます。
絵本の読み聞かせが親子の心にもたらす良い影響
読み聞かせは、聞く子どもだけでなく、読む側の保護者や保育者にも良い影響をもたらします。ここでは、次の3つの観点から紹介します。
- 親の育児ストレスがPSIの数値からもやわらぐこと
- ボランティアとの交流で子どものイライラや集中しづらさが和らぐこと
- 絵本を通じたふれあいが親子や読み手との信頼関係を深めること
親の育児ストレスがPSIの数値からもやわらぐ
毎日の読み聞かせは、子どもの発達を支えるだけでなく、保護者自身が抱える育児のストレスを和らげる効果があることも分かってきています。
読み聞かせは、スマートフォンなどの一方向の画面視聴とは異なり、親と子が同じ絵本に視線を向けながら穏やかに言葉を交わす活動であるため、読み手側の心も落ち着きやすくなり、親子の心理的なつながりが親自身の生きやすさにも関わってくると考えられています。
東北大学加齢医学研究所の松﨑泰先生らによる調査では、未就学児を育てる40組の親子を対象に、約2か月間にわたって毎日の読み聞かせの様子を記録する調査が行われました。親の精神的な負担を測るために、育児のストレスを測る標準的な心理検査である「育児ストレスインデックス(PSI、育児にともなう保護者の負担感を数値化する調査票)」が使われています。約2か月間続けた結果、読み聞かせを行っていた親のPSIスコアが下がったことが確認され、「読み聞かせをやってみてよかった」という声も多く寄せられました。
出典:福音館Webマガジン「とものま」|読み聞かせで親も生きやすくなる? 脳科学から見た絵本|東北大学加齢医学研究所 松﨑泰先生
ボランティアとの交流で子どものイライラや集中しづらさが和らぐ
評価をともなわない第三者である読み手から継続的に読み聞かせを受ける体験は、子どもの心理的な「イライラ」や「集中しづらさ」を和らげることにつながります。
学校や家庭の評価者である教師や親から離れ、ありのままを受け止めてもらえるという感覚を絵本を通じて実感することで、子どものストレス反応がやわらぐと考えられているためです。公立小学校6年生84名を対象に、週2回のペースで読み聞かせと読み聞かせの技術指導を行う「交流授業」プログラムの前後の変化を調べた研究では、参加した子どもたちの心身のストレス反応が下がったことが確かめられています。
統計的な分析(パス解析、適合度:X2=45.60、p=0.026、CFI=0.72、RMSEA=0.09)でも、読み手に対する「自分の変化に気づいて励ましてくれる」という期待感(ソーシャル・サポート期待感)が高まった子どもほど、プログラム後のストレス反応が低くなる関係が確認されています。平均年齢68.8歳のボランティアが2週間に1回、15分程度、年間で約4.5時間読み聞かせを行う活動を15か月間続けた調査でも、短い時間の積み重ねが子どもの内面に持続的な良い影響を与えることが確かめられています。
出典:白梅学園大学|子どもの育ちを支える世代間交流プログラムの開発と効果の検討(PDF)
- 集中しづらさの改善:勉強に身が入らない、難しいことを考えにくいといった、ストレスによる一時的な集中力の低下が抑えられます。
- いらだち・怒りの低下:誰かに怒りをぶつけたくなる、常にいらいらするといった情緒の不安定さがやわらぎます。
- 読み手への信頼の高まり:自分に関心を持って励ましてくれる読み手への期待感(ソーシャル・サポート期待感)が高まります。
絵本を通じたふれあいが親子や読み手との信頼関係を深める
絵本の読み聞かせは、評価をともなわない絵本というものを間に置くことで、読み手と子どもの間に安心できる関係と信頼をつくる働きがあります。親子で同じ絵本に視線を向け合う「共同注視(同じものを一緒に見つめる行為)」を重ね、ぬくもりのある声で受け止めてもらう体験を積み重ねることで、子どもは自分や周りの人への信頼を前向きに育てていくと考えられています。
現職保育士168名へのアンケートでも、読み聞かせの効果として「読み手とのふれあい」を挙げた保育士が15.3%(97件)にのぼり、情緒的なつながりそのものが大きな価値として認識されています。
出典:中村学園大学|保育者による絵本読み聞かせ方法に関する一考察(PDF)
乳幼児期に養育者との関わりの中で形成される愛着関係は「内的ワーキングモデル(自分や他者との関係についての、心の中にある基本的なイメージ)」と呼ばれ、対人関係をどのように受け止めて行動するかという心のひな形をつくっていくとされています。
出典:中村学園大学|絵本の解釈についての研究(PDF)
読み聞かせを負担に感じないための関わり方
「集中して聞いてくれない」「最後まで読めない」という悩みの多くは、関わり方を少し見直すことで和らげられます。ここでは、次の3つのコツを紹介します。
- 子どもの聞く力に合った絵本を選ぶこと
- 感情や解釈を押しつけずに自然に読むこと
- 読後の感想や理解度チェックを無理に求めないこと
子どもの聞く力に合った絵本を選ぶ
子どもが読み聞かせの途中で集中できなくなる大きな理由のひとつは、絵本の言葉の難しさが、その子の発達の段階に合っていないことにあります。幼児期は、主語や述語、助詞などで組み立てられた文を聞いて理解できるようになるまでに、いくつかの段階を踏む必要があるため、時間がかかります。
発達の段階を超えて難しい本を読むと、言葉の処理が追いつかず、子どもの関心がほかへそれてしまいやすくなります。現職保育士168名への調査でも、読み聞かせで困っていることとして「集中しない、遊びに流れる」といった子どもの反応に関する困りごとが34件と最も多く挙げられており、年齢に応じた配慮が課題となっていることがうかがえます。
出典:中村学園大学|保育者による絵本読み聞かせ方法に関する一考察(PDF)
東北大学加齢医学研究所の松﨑泰先生は、早期の教育を意識しすぎて難しい本を選ぶことは、かえって子どもの集中をそらす原因になるため、その子の「聞く力」の段階に合った絵本を選ぶことが基本であると解説しています。
出典:福音館Webマガジン「とものま」|読み聞かせで親も生きやすくなる? 脳科学から見た絵本|東北大学加齢医学研究所 松﨑泰先生
【文法理解の発達ギャップ】
大人が何気なく話しかけたり読み上げたりする文章が、実は子どもの文法理解の段階を超えていて、うまく伝わっていない場合があります。
【年齢に応じた冊数の調整】
0〜1歳ごろは短い絵本を5冊以上読むことが多い一方、2歳以降は物語のある少し長い絵本を1〜4冊に絞ってじっくり読むという傾向があります。
【昔話的な文法への親しみ】
「あるところにこうさぎがいました」のように、細かい心理描写を省いて動詞を中心に語る昔話のようなシンプルな文法は、幼児にとって場面を思い浮かべやすいとされています。
感情や解釈を押しつけずに自然に読む
登場人物ごとに声を大きく変えたり、身振り手振りを加えすぎたりすることを控え、落ち着いて読むことが、子どもの自由な想像力と絵本への理解を深めやすくします。読み手が声色を大きく変えたり、演出を加えすぎたりすると、子どもの関心が絵本の世界そのものから、大人の演技のほうへ向かってしまうことがあります。
また、声に特定の感情や解釈を強く込めすぎると、子どもが自分なりに物語を読み解く余地が狭くなってしまいます。幼児教育の指導要領などでも、キャラクターごとの演じ分けや過度な演出を控え、落ち着いて読むことが聞き手への配慮として位置づけられています。
出典:中村学園大学|絵本の解釈についての研究(PDF)
保育を学ぶ学生を対象にした調査では、読み手が特定の感情を込めずに落ち着いて読んだ場合でも、聞き手は自分自身の育った環境などをもとに、登場人物に対して「過保護」や「自立的」といった、それぞれ異なる解釈を組み立てていることが分かっています。
一方で、現職保育士168名への調査では、「声に抑揚をつける」「キャラクターごとに声を変える」といった表現方法の工夫を挙げた保育士が73.7%(115件)にのぼり、現場では読み方の工夫がさまざまに試みられている実態もうかがえます。
出典:中村学園大学|保育者による絵本読み聞かせ方法に関する一考察(PDF)
読み手自身の物語への向き合い方は、絵本の選び方や間の取り方にも表れやすいため、特定の解釈だけを促すような読み方を避けることが、子どもの自由な発想を大切にすることにつながります。
読後の感想や理解度チェックを無理に求めない
読み聞かせの途中で内容について質問したり、読み終えたあとに「どう思った?」と感想を求めたりすることは、控えたほうがよいとされています。読んだあとに大人が期待する感想を答えさせようとすると、子どもにとって絵本がテストや宿題のように身構える活動になってしまいます。物語の世界にそのまま入り込み、現実とは違う世界を楽しむという時間そのものが、絵本の大切な役割のひとつだからです。
幼児教育者の松岡享子氏(1987)は、絵本を見て知識を増やすこと以上に、物語の世界に入り込んで現実とは別の世界を体験することがもっとも貴重な価値であると述べています。保育士168名への調査では、読み聞かせのあとに「どんなお話だったか尋ねる」「感想を話し合う」といった実践を行っていた保育士は51.6%(47件)にのぼりましたが、これは子どもが自分から話し始めるというより、保育者が発言の機会を意図的に設けている側面が大きいとも指摘されています。
出典:中村学園大学|保育者による絵本読み聞かせ方法に関する一考察(PDF)
絵本は同じ言い回しが繰り返される構造になっていることが多く、言葉をただ耳に入れ続けるだけで、子どもが満足感を得て物語を受け止められるようにつくられています。
保育現場や家庭で役立つ読み聞かせの工夫
忙しい毎日のなかでも読み聞かせを無理なく続けるために、保育の現場では様々な工夫が実践されています。ここでは、次の3つの工夫を紹介します。
- 手遊びなどで導入を行うこと
- 子ども自身に絵本を選んでもらうこと
- 生活の節目にスクリーンタイムを抑えて読み聞かせの時間をつくること
手遊びなどで導入を行う
読み聞かせを始める前に短い手遊びや音楽を取り入れることで、子どもの関心を自然に引きつけ、落ち着いて話を聞く体制を整えることができます。幼児期の子どもは、急な活動の切り替えを苦手とすることが多いため、なじみのあるリズムの手遊びを間にはさむことで、「これからお話が始まる」という流れを感じ取りやすくなり、興奮した状態から落ち着いて絵本に向き合う状態へ移りやすくなると考えられています。
現職保育士168名への調査では、読み聞かせの前に行っていることとして、77.3%(75件)という多くの保育士が「手遊び・音楽」を挙げており、絵本と導入活動を組み合わせる実践が広く定着していることが分かります。ほかにも、表紙やタイトルを見せて子どもに問いかける「言語的導入」を取り入れている例もあり、子どもの主体的な想像を引き出す工夫として役立てられています。
出典:中村学園大学|保育者による絵本読み聞かせ方法に関する一考察(PDF)
子ども自身に絵本を選んでもらう
大人が一方的に本を決めるのではなく、子どもが自分で絵本を選ぶ機会を用意することは、主体的で意欲的な姿勢を育てることにつながります。幼児が自分の意思で何かを選べる環境が整っていると、内側から沸き上がる学びへの意欲が高まりやすくなるためです。
『保育所保育指針』でも、子どもが自発的・意欲的に関われる環境をつくり、主体的な活動を大切にすることが原則として示されています。保育施設での調査では、87.5%(147名)の保育者が「子ども自身が絵本を選ぶ機会を設けている」と回答しており、子どもの自発性を大切にする取り組みが広く行われていることが分かります。保育者が絵本を選ぶ際に重視している基準としては、「子どもの興味・関心」が26.0%(128件)で最も多く、次いで「子どもの年齢や発達」が20.9%(103件)、「季節・行事」が20.7%(102件)と続きます。作者(3.5%)や出版社(0.8%)といった大人側の好みはあまり重視されておらず、子どもにとって意味のあるものを基準にすることが、主体性を育てる鍵になっていると考えられます。
出典:中村学園大学|保育者による絵本読み聞かせ方法に関する一考察(PDF)
生活の節目にスクリーンタイムを抑えて読み聞かせの時間をつくる
読み聞かせを日常の習慣にしている家庭では、親と子どちらのスクリーンタイム(スマートフォンやテレビなどの画面を見る時間)も短い傾向にあることが分かっています。画面を長い時間見続けることは、親子が直接顔を合わせて言葉をやりとりする機会を減らしやすいため、読み聞かせを生活の節目に置くことが、画面との付き合い方を整えることにもつながると考えられます。
エコチル調査の36,866組のデータ解析でも、読み聞かせの頻度が高い家庭ほど、子どものテレビやDVDの視聴時間が短く、親自身が子どものそばでスマートフォンなどを操作する時間も短い傾向があることが確認されています。
出典:東北大学|絵本の読み聞かせが子どもの発達全般に好影響を与えることを解明-エコチル調査のビッグデータ解析より-
保育の現場でも、午後(25.3%、79件)や午前中(23.1%、72件)、昼食前(14.7%、46件)、朝の会(13.1%、41件)、帰りの会(11.2%、35件)など、生活の節目となる時間に読み聞かせを組み込んでいる例が多く見られ、睡眠導入を目的とした午睡前(2.6%、8件)はわずかにとどまっています。
出典:中村学園大学|保育者による絵本読み聞かせ方法に関する一考察(PDF)
日常生活で周りの支えを感じにくかった子どもであっても、読み聞かせと実技指導を組み合わせたプログラムに参加した後は、読み手への期待感が高まったことも確かめられています。
絵本が持つ本当の役割と子どもの自立
最後に、文字や知識の早期学習にとどまらない、絵本が本来持つ役割について整理します。ここでは、次の3つの観点から紹介します。
- 知識の詰め込みではなく自由な物語の世界を楽しめること
- 自分で考えて問題を解決する力が育つこと
- 安心できる居場所(安全基地)が自立を後押しすること
知識の詰め込みではなく自由な物語の世界を楽しむ
絵本の本当の価値は、文字を早く覚えさせることではなく、現実とは違う物語の世界に入り込み、自由に想像を広げる体験そのものにあります。絵本を国語の勉強道具として使ってしまうと、子ども自身の感情や思考が伸びやかに広がりにくくなります。
ただ物語を読み聞き、読み手と心を通わせるという情緒的な体験こそが、人格の土台を育てると考えられているためです。幼稚園教育要領や保育所保育指針でも、幼児期の絵本の役割は、小学校以降の教科学習とは異なり、先生や友達と心を通わせ、イメージを豊かにし、言葉の感覚を養うことにあるとされています。保育を学ぶ学生が2冊の絵本を読んで感じたことをまとめた調査では、物語の構造そのものよりも、「愛情」(267件)や「自立」(224件)、「信頼」(38件)といった物語の奥にあるテーマを的確に感じ取っていたことが分かっています。
出典:中村学園大学|絵本の解釈についての研究(PDF)
自分で考えて問題を解決する力が育つ
絵本の物語で描かれる葛藤や、出来事の原因と結果のつながりは、子どもが自分の頭で考える力を刺激し、論理的に考える力を育てます。主人公がぶつかる壁や、出来事の前後関係を物語に沿って追いかけるなかで、子どもは「なぜこうなったのか」「自分ならどうするか」を自分から考えるようになり、この頭の中でのシミュレーションが、日常生活や集団生活のなかで自分から課題に向き合う力を育てると考えられています。幼児教育や認知科学の分野では、絵本に登場する道徳的な葛藤や、出来事の因果関係が、子どもの分析力や論理的に考える力、問題を解決する力を高めることが示されています。
出典:Learning Gate|Analysis on the Role of Picture Books in Children’s Cognitive Development Education
子どもの興味に合わせて展開が変わる仕組みを取り入れた絵本についての調査でも、子どもの興味に合わせて難易度が変わることが、状況に応じて考え方を切り替える力を41%〜45%高めることが確認されています。事象を時系列で語ったり、日常の遊びのルールを説明したりする力は、5歳後半から6歳にかけて一定の水準へと近づいていき、この時期に論理的に考える力の土台が育っていきます。
安心できる居場所(安全基地)が自立を後押しする
絵本を介した穏やかな関わりは、子どもの心の中に安心できる場所をつくり、それが自立への一歩を支える力になります。読み手から温かい愛情と受け止めを経験した子どもは、自分や周りの人への安定した信頼感を育てます。
「いつでも安心できる場所に戻れる」という確信があることで、子どもは初めて、新しいことを知るための探検や挑戦に踏み出せるようになると考えられているためです。発達心理学の愛着理論では、保護者を「安全基地(困ったときに戻れる、安心できるよりどころ)」として認識することで、子どもは自分の好奇心にしたがって外の世界を探索し、うまくいかないときには愛情を受け取って再び外へ出発するという、安定した愛着のパターンが育まれるとされています。
【『しりたがりやのふくろうぼうや』にみる往還の構造】
この絵本では、主人公の子ふくろうが、自分の目で確かめるために母のもとを離れて星や海の冒険に旅立ち、そのたびに母ふくろうの穏やかな抱っこ(安全基地)に包まれてから再び旅立つ様子が描かれています。安心できる場所と、そこから外へ向かう挑戦とが繰り返される構造は、愛着と自立の関係を分かりやすく表しています。
保育者を目指す学生を対象にした調査では、絵本の解釈には、乳幼児期から現在に至るまでの保護者との関係で築かれてきた「内的ワーキングモデル(自分や他者との関係についての、心の中にある基本的なイメージ)」が反映されていることも示されており、絵本を読み聞かせる経験そのものが、親や保育者としての向き合い方を見つめ直すきっかけにもなり得ます。
出典:中村学園大学|絵本の解釈についての研究(PDF)
絵本の読み聞かせが子どもの成長を支えるまとめ
ここまでの内容を、改めて3つの観点から整理します。
- 絵本は文字を教える道具ではなく、心を通わせる対話のツールであること
- 演出や感想を無理に加えず、自然体で向き合うことが望ましいこと
- ここまで紹介した効果は、大規模な調査や心理測定によって裏付けられていること
絵本は文字を教える道具ではなく心を通わせる対話のツール
絵本は、早期の言葉学習や文字の詰め込みを目的とする勉強道具ではなく、読み手と子どもが心を通わせるための対話のツールとしての役割を持っています。絵本を介することで、大人は自分の解釈や評価を押しつけずに済み、子どもは評価されるストレスなく、安心できる物語の時間を大人と共有できるためです。
学校教育法や保育所保育指針でも、絵本は知識の教授そのものではなく、他者と心を通わせ、言葉に対する感覚を養うものとして位置づけられています。現職保育士168名への調査でも、絵本の効果として「知識教養」を挙げた保育士は9.5%にとどまる一方、想像力(19.9%)、言語能力(19.2%)、感情表現(18.0%)、読み手とのふれあい(15.3%)といった、子どもの内面や対人関係に関わる価値のほうが重視されています。
出典:中村学園大学|保育者による絵本読み聞かせ方法に関する一考察(PDF)
演出や感想を無理に加えず自然体で向き合う
読み聞かせを負担にしないためには、上手に演じ分けようとしたり、何かを理解させようとしたりする力みを手放し、自然体で向き合うことが大切です。
東北大学加齢医学研究所の松﨑泰先生が示すように、子どもの集中が続かないのは、多くの場合、絵本の言葉がその子の発達段階に合っていないだけであり、読み手の技術不足ではありません。過度な演出や読後の質問を控え、子どもの聞く力に合った絵本をただ静かに読むことでも、絵本が持つ役割は十分に果たされます。
保育士168名への調査でも、読み終えたあとに特別な問いかけを行っていない保育士が一定数見られ、静かに余韻を味わうスタイルも実践のひとつとして成り立っています。
出典:中村学園大学|保育者による絵本読み聞かせ方法に関する一考察(PDF)
ここまでの効果は客観的な調査で裏付けられている
ここで紹介してきた発達効果やストレス軽減の効果は、いずれも大規模な調査や心理的な測定を用いた実証研究にもとづいています。
絵本を介した対面でのやりとりを続けることが、子どもの発達を支える力を育み、周囲への信頼感を高めることで、心身のストレス反応を和らげると考えられているためです。東北大学が発表したエコチル調査の解析(36,866組)では、週5回以上の継続的な読み聞かせが、3歳時点での発達領域のスコア向上に関わっていることが示されています。読み手との交流が子どものソーシャル・サポート期待感を育み、ストレス反応をやわらげるという関係も、統計的な分析によって確認されています。
絵本の解釈に関する調査では、絵本を読み聞かせる経験が、保護者や保育者自身の向き合い方を見つめ直すきっかけにもなり得ることも示されています。
出典:東北大学|絵本の読み聞かせが子どもの発達全般に好影響を与えることを解明-エコチル調査のビッグデータ解析より-
出典:白梅学園大学|子どもの育ちを支える世代間交流プログラムの開発と効果の検討(PDF)
出典:中村学園大学|絵本の解釈についての研究(PDF)
まとめ
今日の読み聞かせでは、演出や感想を求めることよりも、子どもの聞く力に合った1冊を選ぶことが大切であるとされています。静かにページをめくることから始めてみましょう。


