レッジョ・エミリア教育とは?理念・実践手法を紹介

教育・知育

「レッジョ・エミリア教育」という言葉をSNSや育児雑誌で見かけ、わが子の園選びや家庭教育に取り入れられるのか気になっている方もいるでしょう。ただ、「アート重視」「子どもの主体性を尊重する」といった情報だけでは、具体的な実践方法や、モンテッソーリ教育などの他のオルタナティブ教育との違いは分かりにくいものです。

本記事では、レッジョ・エミリア教育の基本理念から実践方法、他の教育法との違い、発達上のメリットとデメリット、日本国内での園選び、家庭でできる工夫まで順に解説します。

レッジョ・エミリア教育の基本理念

イタリア発祥のレッジョ・エミリア教育は、子どもの豊かな表現力、周囲との共同性、問いを深める探究のプロセスを大切にします。まずは、この教育の土台となる考え方を見ていきましょう。

100の言葉

レッジョ・エミリア教育では、子どもは生まれながらに多様な表現手段と潜在能力を持つ存在と考えます。創始者ローリス・マラグッツィは、「子どもには100のことばがある」という詩的な言葉で、この考え方を表しました。

ここでいう「ことば」は、話し言葉だけを指しません。造形、身体、音、光など、さまざまな方法で考えたり表現したりする力を含みます。レッジョ・エミリア教育では、これを「100の思考・表現様式」と捉え、認知・感情・美意識・身体性を分けずに考えます。

一方、大人の既成概念や画一的な指導によって、この多様な表現の可能性である「99の言葉」が奪われてしまうという批判もあります。そのため、子どもが持つ多様な表現手段を尊重することが、権利として位置づけられています。「アート重視」とだけ捉えるのではなく、子どもの多様な表現力を尊重する人間観が教育の根幹にあると理解することが大切です。

参考:レッジョ・エミリア幼児教育の紹介|情報学環・福武ホール(PDF)

共同性

レッジョ・エミリア教育では、教育を一人の指導者だけで進めません。子ども・保護者・教育者・地域が対等に関わる共同社会の中で、学びをつくります。

背景にあるのが、「私とは、私達である」という合言葉です。子どもを一人だけで学ぶ存在として扱うのではなく、学校を市民共同体の中心である「広場」と位置づけ、対話や互いに支え合う関係を育てます。

具体的には、保護者が学校運営評議会に参加し、意思決定に関わる制度があります。また、1クラスあたり約20名の子どもを、2人の対等な立場の保育者が担当するチームティーチング体制がとられています。保護者や地域も教育のパートナーとして関わる点が、大きな特徴です。

参考:Evaluation of the Reggio Approach to Early Education|IZA Institute of Labor Economics

探究のプロセス

レッジョ・エミリア教育では、あらかじめ決めた目標を達成することだけでなく、子どもの問いから始まる螺旋状の探究プロセスを重視します。

そのため、固定された指導計画だけに沿うのではなく、観察・再観察・表現・再表現を繰り返すオープンエンドな仕組みを取り入れます。あらかじめ「ねらい」を決めるのではなく、子どもの関心から始まる「エマージェント・カリキュラム」が採用されています。

また、失敗や意見の対立を否定的に捉えず、学びにつながるものとして扱う「交渉する学び」も実践に含まれます。同じテーマを一度で終わらせず、何度も掘り下げる循環的な時間の使い方も特徴です。単なる自由放任ではなく、子どもの問いを深める仕組みがあることを押さえておきましょう。

参考:保育・教育の高度化に資する保育者・教師による実践の記録のあり方 ; イタリア レッジョ|福井大学リポジトリ

レッジョ・エミリア教育の実践方法

代表的な実践方法は、プロジェッティ、ドキュメンテーション、専門職による支援の3つです。それぞれがどのように機能するのかを見ていきます。

プロジェッティ

レッジョ・エミリア教育の現場では、数日から数ヶ月間にわたり、小グループで特定のテーマを深く調べるプロジェクト活動が行われます。これを「プロジェッティ」と呼びます。

長期的に取り組むのは、子ども同士の対話や協働を通して、光や雨、音など身近な現象を科学的・芸術的に探究するためです。活動は2〜5人程度の小グループで行い、仮説を立て、描画や立体化で表現し、検証と対話を重ねます。テーマは、子どもの日常の疑問や偶発的な出来事から柔軟に生まれます。

実際のプロジェクトには、次のような事例があります。

小鳥の公園プロジェクト

校庭にやってくる鳥への興味をきっかけに、子どもたちが遊園地や水辺、観測所を作り上げるまで発展した事例です。

街と雨プロジェクト

雨が降る前の街を観察し、人の歩き方や光の反射がどのように変わるかを子どもたちが予想し、表現した事例です。

群衆プロジェクト

休暇中に経験した混雑について語り合うことから始まり、人込みという構造を子どもたちなりに解明していった事例です。

参考:レッジョ・エミリア幼児教育の紹介|情報学環・福武ホール(PDF)

ドキュメンテーション

もうひとつの柱が「ドキュメンテーション」です。子どもの会話や行動、作品の制作プロセスを写真や文字で記録し、学びの過程を見える形にします。

完成品だけを見るのではなく、試行錯誤や思考の軌跡を残すことで、子ども自身の振り返り、教師の指導改善、保護者との対話につなげます。

記録には、カメラやテープレコーダー、パネルなど複数の手段を使います。子どもの自己省察、教師の研究・評価、保護者や地域への発信という3つの機能があるとされています。さらに、記録はパネルやポートフォリオとして園内の広場や壁面に展示され、誰もが見られる環境が整えられます。ドキュメンテーションは単なるお便りや連絡帳ではなく、学びを振り返り、組み立て直すためのツールです。

参考:米国におけるレッジョ・エミリアのドキュメンテーションに対する解釈とその変化|J-Stage

アトリエリスタとペダゴジスタ

レッジョ・エミリア教育を行う園では、芸術の専門家である「アトリエリスタ」と、教育の専門家である「ペダゴジスタ(教育理論の専門職)」が保育者を支えます。

造形や美に関する専門性と教育理論の知識を園の中に取り入れることで、子どもの表現の可能性を広げ、質の高いカリキュラムを維持することが目的です。

各幼児学校には、アトリエリスタが常駐する専用の創作空間「アトリエ」や、教室に付属する「ミニアトリエ」が設けられています。ペダゴジスタは複数の園を巡回し、研修や教育方針の調整を担います。また、企業から出る産業廃棄物を教育素材として集積・供給する創造的リサイクルセンター「レミダ」との連携も特徴のひとつです。専門職と環境設定が、子どもの創造性を支える仕組みになっています。

参考:保育・教育の高度化に資する保育者・教師による実践の記録のあり方 ; イタリア レッジョ|福井大学リポジトリ

レッジョ・エミリア教育と他の教育法

モンテッソーリ教育、シュタイナー教育、日本の標準的な保育との違いを比べると、レッジョ・エミリア教育の特徴がより分かりやすくなります。

モンテッソーリ教育との違い

モンテッソーリ教育は、子ども一人ひとりの自立と、構造化された教具を重視します。一方、レッジョ・エミリア教育は、他者との協働や自由な素材探究を重視します。

モンテッソーリ教育では、専用の教具を一人で操作しながら自己教育力を育てます。これに対してレッジョ・エミリア教育では、小グループで対話し、意見の違いを調整する「交渉」や、多様な廃材・表現媒体の活用を重視します。

環境も異なります。モンテッソーリ教育では自己教育用に開発された専用の教具を使うのに対し、レッジョ・エミリア教育ではオープンエンドな素材や廃材、光、デジタル機器などを活用します。学習形態も、モンテッソーリ教育が個人作業による自立を中心とするのに対し、レッジョ・エミリア教育は2〜5人の小グループによる協働が中心です。指導法も、教具の正しい扱い方を伝えるモンテッソーリ教育に対し、レッジョ・エミリア教育ではアトリエリスタによる技術支援のもとで自由なアイデア表現を促します。

参考:Evaluation of the Reggio Approach to Early Education|IZA Institute of Labor Economics

シュタイナー教育との違い

シュタイナー教育は精神性や自然のリズムを重視します。一方、レッジョ・エミリア教育は、現実社会の探究や最新テクノロジーとの融合を重視します。

シュタイナー教育が7年周期の発達観に基づきテレビやデジタル機器を排除するのに対し、レッジョ・エミリア教育ではOHPやライトテーブル、パソコン、デジタルカメラなどを表現ツールとして取り入れ、都市や社会の構造を探究します。

理論的な背景も異なります。シュタイナー教育は精神科学と7年周期の発達論に基づくのに対し、レッジョ・エミリア教育はデューイやピアジェ、ヴィゴツキーらの社会構成主義的理論を土台としています。教材についても、自然素材を重視しデジタル機器を排するシュタイナー教育に対し、レッジョ・エミリア教育はリサイクル産業材や光、鏡、パソコン、カメラを組み合わせます。扱う領域も、内面世界や芸術的リズムの保護を重視するシュタイナー教育に対し、レッジョ・エミリア教育は地域社会との接続や社会探究を重視します。

参考:レッジョ・エミリア幼児教育の紹介|情報学環・福武ホール(PDF)

日本の標準的保育との違い

日本の標準的な一斉保育や自由遊びに対し、レッジョ・エミリア教育は、長期にわたる探究と記録を通じた学びの再構築を重視します。

日本の保育は幼稚園教育要領などに基づき、行事や生活指導などを軸に行われます。一方、レッジョ・エミリア教育は、あらかじめ決めた行動計画や結果だけを評価するのではなく、ドキュメンテーションを通じた対話的なカリキュラムで進めます。

カリキュラムでは、季節の行事や一斉課題を中心とする日本の保育に対し、レッジョ・エミリア教育では数ヶ月に及ぶ小グループのプロジェクトを行います。評価も、できた・できないという結果だけでなく、思考や対話、試行錯誤の過程を記録します。体制についても、保育者が中心となって環境を設定する日本の保育に対し、レッジョ・エミリア教育ではアトリエリスタやペダゴジスタ、保護者、地域が共同で環境をつくります。

3つの比較を整理すると、次のとおりです。

比較項目モンテッソーリ教育シュタイナー教育日本の標準的保育レッジョ・エミリア教育
学習の中心個人での教具操作精神性・自然のリズム一斉指導・行事小グループでの対話と協働
教材・環境専用の開発教具自然素材中心、デジタル排除定型の教材・カリキュラム廃材・光・デジタル機器を融合
評価の視点教具操作の習熟発達段階に応じた見守り結果の到達度確認過程の記録(ドキュメンテーション)

レッジョ・エミリア教育のメリット

実践例や調査から示されている、子どもの非認知能力や社会性の発達に関するメリットを見ていきます。

自己肯定感と主体性

決められた正解を押し付けられずに考える経験を重ねることで、自己効力感や自分から課題を解決しようとする意欲が高まるとされています。

子ども自身の問いや仮説が受け止められ、試行錯誤の過程そのものがドキュメンテーションとして尊重・展示されることで、自分で考えて行動する自信につながります。

成人になってからの追跡調査では、物事を自分でコントロールできているという感覚(ローカス・オブ・コントロール)の有意な高まりが報告されています。日々の活動では、自分のアイデアを仮説として形にし、何度も検証・再表現する自主性を育てます。また、間違いや失敗を学びのきっかけとして扱う環境が、心理的な安心感にもつながっています。

参考:Evaluation of the Reggio Approach to Early Education|IZA Institute of Labor Economics

創造力と表現力

多様な素材やメディアに触れることで、固定された考え方にとらわれない創造力や美的な感性が育つとされています。

アトリエには多数のリサイクル素材や自然物、光や影を試す機器などが用意され、音や匂いといった目に見えない感情や概念も、可視化・造形化して表現します。

具体的には、OHPやライトテーブル、三面鏡などを使い、視覚・触覚・空間感覚を刺激します。産業廃棄物や自然素材を組み合わせる経験も積みます。さらに、「匂いや音を描く」といった抽象的な概念を具体的な媒体に変える表現にも取り組みます。

参考:インクルーシブ保育のための「あとりえ」の可能性|植草学園大学リポジトリ

対話と協働

意見の違いや対立を対話によって解決する経験を重ねることで、社会性や他者を受け入れる力が身につくとされています。

2〜5人程度の小グループで探究や議論を行い、自分の考えを言葉や図解で説明し、相手の異なる意見と折り合いをつける「交渉」を繰り返すためです。

強みと困難さのアンケート調査では、他者を思いやる行動のスコアが有意に上昇したという報告があります。成長後の成人期では、投票率の高さや市民活動への積極的な参画意欲も示されています。また、異年齢の子どもや特別な支援を必要とする子どもと一緒に作品をつくる、インクルーシブな協働の経験も特徴です。

参考:Evaluation of the Reggio Approach to Early Education|IZA Institute of Labor Economics

レッジョ・エミリア教育の課題とデメリット

レッジョ・エミリア教育には、自由な探究を重視するからこそ生じる課題もあります。短期的なテストとの相性や、日本国内での受け入れ環境について確認しましょう。

一斉指示への適応

自由な探究に慣れている子どもは、型の決まった一斉指示や、ひとつの正解を求める環境に戸惑う場合があります。

あらかじめ決められた時間割や全員一律の課題を受け身でこなす訓練を重視しないため、小学校入学後の仕組みに慣れるまで時間がかかることがあります。

タイムスケジュールに沿った集団行動や一斉指示に、疑問や抵抗感を抱くこともあります。唯一の正解を短時間で答えるペーパーテストにも馴染みが薄い場合があります。また、指導者から一方的に与えられる課題では、動機づけが難しくなることもあります。小学校教育との違いは、園選びの前に確認しておきたいポイントです。

標準化テストとの相性

標準化されたペーパーテストによるIQ測定など、短期的な数値では、他の教育法に比べて顕著な優位性が出にくいとされています。

特定の知識の丸暗記や、言語的・数理的な型どおりの問題の解き方を直接指導しないため、幼少期の標準化テストの数値にはすぐ反映されにくい傾向があります。

ある実証研究では、幼少期・青年期の標準化IQテストの値が、宗教系や州立の園と同等、あるいは限定的な差にとどまる傾向が報告されています。一方、社会情緒的スキルや雇用、社会的参画といった非認知能力では中長期的な効果が示されており、短期のペーパーテスト結果との違いが見られます。学力テストの即効性を重視する場合は、期待とのミスマッチが生じる可能性があります。

参考:Evaluation of the Reggio Approach to Early Education|IZA Institute of Labor Economics

国内の導入施設が少ない

完全なレッジョ・エミリア教育を提供する施設は少なく、通園先の選択肢や情報が限られているのが現状です。

アトリエリスタやペダゴジスタといった専門職の常駐、レミダのような地域インフラ、広場を持つ建築構造などが必要で、日本の制度のもとでフル導入するには障壁があります。

日本国内でフルスペックの導入を行っている園はごく少数にとどまり、インターナショナルスクールに偏る傾向があります。無認可園やインターナショナルスクールでは保育料が高額になりやすく、通園できるエリアも限られます。一般の認可園では、ドキュメンテーションの掲示やアトリエ部屋の設置など、部分的に取り入れるケースが多いのが実情です。

参考:レッジョ・エミリア教育の研究動向と課題|岡山大学学術成果リポジトリ

日本で園を探す方法

日本国内でレッジョ・エミリア教育の理念や手法を取り入れている施設を探すなら、次の3つの方法が役立ちます。

インターナショナルスクール

英語教育とレッジョ・エミリア・アプローチを組み合わせたインターナショナルスクールを探す方法があります。

海外の教育カリキュラムとの親和性が高く、アトリエリスタの配置やプロジェクト学習を本格的に取り入れている施設が、インターナショナルスクールに多いためです。

探すときは、都心部を中心に「レッジョ・インスパイアード」を掲げるプレスクールや幼稚園があるか確認します。英語でプロジェクト活動を行っているか、ネイティブの保育者とアート専門家が連携しているかもポイントです。授業料、入園条件、対象となる学齢、卒園後の進路実績も確認しておきましょう。

参考:レッジョ・エミリア教育の研究動向と課題|岡山大学学術成果リポジトリ

認可保育園・認定こども園

園の教育方針に「ドキュメンテーション」「プロジェクト保育」「素材庫」などの言葉を掲げる認可保育園や認定こども園を探す方法もあります。

日本の認可保育園や私立幼稚園の中にも、園内研修や環境改善を通してレッジョ・エミリア教育の考え方を取り入れる園があります。

まず、園の公式サイトや入園案内に「ドキュメンテーションの掲示」や「廃材・素材庫(アトリエ)」についての記載があるか確認しましょう。見学では、子ども主体のプロジェクト作品や、壁面に掲示された対話の記録があるかを見ます。実際に、園内研修でエピソード記録や素材研究に取り組み、インクルーシブな保育を目指している幼稚園の事例も報告されています。

幼児教室・ワークショップ

全日制の園に通うことが難しい場合は、単発や週数回の造形教室、プロジェクト型の幼児教室を利用する方法もあります。

アートスタジオや探究型の幼児教室では、アトリエリスタのような役割を担う指導者が、多様な素材を使った探究ワークショップを提供している場合があります。

次のような教室や機会を組み合わせると、家庭保育を補いやすくなります。

  • 「非認知能力育成」「探究造形」「プロジェクト型学習」を掲げる幼児教室
  • 親子参加型のワークショップや週末イベント
  • 家庭保育と習い事を組み合わせた柔軟な教育環境の設計

園選び以外の方法として、習い事やワークショップを取り入れるのも選択肢のひとつです。

家庭で実践する方法

専門施設に通わなくても、親子の対話やリビングの環境づくりを工夫すれば、レッジョ・エミリア教育の考え方を家庭に取り入れられます。ここでは3つの方法を紹介します。

対話と仮説づくり

子どもの「なぜ?」にすぐ答えるのではなく、「どう思う?」と問い返し、一緒に仮説を立ててみましょう。

親がすぐに正解を教えると、子どもが自分で考える機会が減ります。そこで、対話を通じて理由や仕組みを予想し、自分で確かめる経験につなげます。

「雨はどこから来ると思う?」「影はどうして伸びるのかな?」など、答えがひとつに決まらない問いを日常に取り入れてみましょう。突拍子もない仮説や言い間違いも否定せず、「面白いね、確かめてみよう」と受け止めることが大切です。図鑑で正解を調べる前に、絵や言葉で予想を表す時間をつくるのもよいでしょう。

参考:レッジョ・エミリア幼児教育の紹介|情報学環・福武ホール(PDF)

家庭内アトリエ

リビングや部屋の一角に、廃材や自然物、描画ツールを自由に使える「アトリエコーナー」をつくる方法です。

完成品をつくるためのキット玩具だけを用意するのではなく、多様な素材を手の届く場所に置くことで、子どもが自分で遊びを思いつき、創作に集中しやすくなります。

アトリエコーナーには、次のようなものを用意すると始めやすくなります。

  • 空き箱、牛乳パック、糸、リボン、ボタン、どんぐり、小石などを分類して並べる棚
  • 透明容器、鏡、懐中電灯など、光と影の遊びに使える観察ツール
  • 汚れを気にせず工作や描画に取り組めるプレイスペース

高価な教具を買わなくても、家庭のリビングを創造的な空間にできます。

参考:インクルーシブ保育のための「あとりえ」の可能性|植草学園大学リポジトリ

記録と掲示

子どもの写真やつぶやき、制作過程のメモを壁やコルクボードに飾り、家庭でもドキュメンテーションを行ってみましょう。

活動や思考のプロセスが形になり、家族が見られる場所に飾られることで、子どもが自分の取り組みを振り返り、次の探究への意欲を高めるきっかけになります。

まず、子どもが夢中で作っている姿や、制作途中の作品をスマートフォンなどで撮影します。次に、子どもの面白い言葉や発見を付箋やメモに書き、写真の横に添えます。最後に、リビングの目立つ壁面や冷蔵庫の横に掲示し、「この時どうやって作ったの?」と家族で対話してみましょう。

参考:保育・教育の高度化に資する保育者・教師による実践の記録のあり方 ; イタリア レッジョ|福井大学リポジトリ

レッジョ・エミリア教育に向く子どもの特性

レッジョ・エミリア教育の探究的・芸術的なアプローチと相性がよく、力を伸ばしやすい子どもの特性を紹介します。ただし、ここに当てはまらない子どもに向かないと決めつける必要はありません。

造形や絵画が好き

工作や絵画、造形を通じて自分の世界を形にすることが好きな子どもは、レッジョ・エミリア教育の環境を活用しやすいでしょう。

一般的な園では、お絵描きの時間や技法が限られることがあります。一方、多様な素材や表現手段を使えるアトリエでは、興味のある活動に集中しやすくなります。

空き箱や粘土、絵の具に長時間集中する子どもや、言葉よりも視覚的・立体的な表現で感情や考えを伝える子どもにも向いています。光や影、音、粘土など異なる媒体を組み合わせ、新しい表現を考えることが好きな子どもも力を発揮しやすいでしょう。

参考:インクルーシブ保育のための「あとりえ」の可能性|植草学園大学リポジトリ

好奇心と探究心が強い

「なぜ?」「どうして?」と物事の仕組みや自然現象に疑問を持ち、納得するまで調べたい子どもにも向いています。

答えを暗記するのではなく、仮説を立てて検証するプロジェッティの仕組みが、強い探究心と相性がよいためです。

昆虫の行動や影の動き、機械の構造、水や光の変化などに興味を示す子どもや、ひとつの疑問について何日も質問や観察を続けたい子どもに合っています。大人や友達と「実験」や「観察」をしながら予測することが好きな子どもも、力を発揮しやすいでしょう。

参考:レッジョ・エミリア幼児教育の紹介|情報学環・福武ホール(PDF)

自分のペースで取り組みたい

決まった時間割に追われず、自分のペースで試行錯誤したい子どもや、発達段階がさまざまな子どもにも適合します。

一斉行動や時間で区切られた指示にすぐ従うことが苦手な子どもでも、個々のペースや関心に合わせた小グループ活動と素材からの刺激によって、主体性を発揮しやすい環境だからです。

気になる作業に没頭すると周りが見えなくなる子どもや、言語発達が途上でも素材やアートを通じて他者と意思疎通を図りたい子どもにも合っています。発達に凸凹があったり、特別な支援を必要としたりする子どもが、多様な素材から自発性を引き出したい場合にも適した環境です。

参考:インクルーシブ保育のための「あとりえ」の可能性|植草学園大学リポジトリ

レッジョ・エミリア教育のまとめ

ここまで、レッジョ・エミリア教育の理念、実践方法、他の教育法との違い、家庭での取り入れ方を見てきました。最後に、園選びや家庭教育に活かすためのポイントを整理します。

理念と実践を一体で捉える

「100の言葉」という人間観と、プロジェッティやドキュメンテーションは、切り離して考えるものではありません。

大切なのは、「アートや廃材で遊ばせる」という表面的な手法だけを取り入れることではありません。子どもの潜在能力を信じ、対話を重ねるという理念が土台にあります。子どもの可能性を信じる考え方と、学びを可視化・記録する方法は一体です。レッジョ・エミリア教育は、美術だけでなく科学や社会、対話も含む総合的な探究学習として理解すると、その特徴が分かりやすくなります。

園選びと家庭での段階的な導入

完璧な環境を探し続けるより、園の取り組みを確認しながら、家庭でできる小さな工夫を組み合わせる方法が現実的です。

国内でフル導入している園は限られているため、地域の園がドキュメンテーションやプロジェクト保育にどこまで取り組んでいるかを見極めましょう。園選びでは「ドキュメンテーションの掲示」や「子ども主体の環境」があるかを確認します。家庭では「アトリエコーナー」の設置や「否定しない問いかけ」から始められます。習い事やワークショップを補完的に使うのも方法のひとつです。

大人の伴走姿勢

大人には、教育者や指導者として一方的に教えるのではなく、子どもと一緒に驚き、学ぶ「共同探究者・伴走者」として関わる姿勢が求められます。 大人が「教え込む」立場から一歩離れ、子どもの表現を見る目と聞く耳を持って観察・記録・応答することで、子どもの創造的な力を引き出しやすくなります。

正解を教える指導者から、環境を整え、問いを共有する伴走者へ役割を変えること。子どもの声や作品に耳を傾け、観察と記録を続けること。そして、親自身も子どもと一緒に驚き、発見を楽しむこと。この3つが、レッジョ・エミリア教育を家庭などで活かすための重要なポイントとされています。